カウンセリングの効果(ポジティブ効果・ネガティブ効果)
カウンセリングやこころ理療法の「効果」というと、多くの人は「良くなること」だけを想像しがちです。しかし研究では、「良い効果(改善:positive effects)」と同時に、いくつかの「望ましくない結果(negative effects)」も一定割合で起こることが示されています。大切なのは、「必ず良くなる」と過度に期待するのでも、「危ないからやめる」と恐れるのでもなく、起こりうる結果を最初から共有し、途中で軌道修正できるようにすることです。
クライエントに起こりうる結果は、大きく次の5つとして整理できます。
① 改善・回復(良い効果)
症状が軽くなる、生活の質が上がる、人間関係が楽になる、自分の対処が増える、などの変化です。ただし、改善のスピードには個人差があり、「回数を重ねれば必ず効く」とは言えません。平均的には、おおよそ13〜18回のセッションで「臨床的に意味のある変化」が起きやすい、という推定も報告されています。
② 無変化(無反応)
一定回数取り組んでも、統計的にみて「意味のある改善」が確認できない状態です。研究では、無反応は40〜50%程度と報告されています。言い換えると、100人が受けると40〜50人は、大きな改善が確認できない可能性がある、という現実です。だからこそ、「今どこが良くなっていて、どこが停滞しているか」を途中で点検し、目標や進め方を調整することが重要になります。
③ 悪化(deterioration)
介入前よりも症状や状態が悪くなることです。悪化率は研究全体として5〜10%程度と見積もられています。これは、10〜20人に1人は「受ける前より悪くなる」可能性がある、という意味です。悪化はめったに起きない例外ではなく、専門職が最初から想定し、早期発見し、対処計画を持っておくべきリスクとして位置づけられます。
④ 中断(dropout)
計画していた終了より前に、クライエントが通うことをやめてしまうことです。研究では中断率が20〜60%と幅広く報告されています。つまり、条件によっては5人に1人から、半数以上が途中でやめることが起こりえます。ただし、中断には「少し良くなったので自己判断でやめた」なども混ざるため、中断=すべて失敗、と単純には言えません。一方で、話し合いのない突然の中断は、結果が良好になりにくいことも示されています。
⑤ 副作用・負担(side effects / burden)
こころ理療法は「やさしい話をして安こころして終わる」だけではなく、こころが揺れる、つらい記憶が刺激される、自分や家族関係が一時的に不安定になる、などの負担が起こりえます。ある研究では、クライエントの98.6%が何らかの「負担や副作用」を経験し、そのうち43.7%が「深刻」または「非常に深刻」と報告しています。ここでいう副作用は、「治療が間違っていた」という意味に限らず、「適切に行われた治療でも起こりうる望ましくない出来事」を含みます。したがって、はじめに「起こりうる負担」を具体的に説明し、途中で調整できるようにすることが安こころにつながります。
このように、カウンセリングやこころ理療法などメンタルヘルスサービスには利益だけでなく、無変化・悪化・中断・副作用といった現実的な確率があります。だからこそ実践上は、①最初に目標と方法とリスクをわかりやすく共有する、②途中で状態を点検して停滞や悪化の兆しを早めに捉える、③必要なら方針変更や他機関紹介も含めて柔軟に対応する、という「安全設計」が要になります。当オフィスではこれらの「望ましくない効果」できるだけ少なくするために、クライエントの皆さまからのフィードバックを大切にしていきます。それがROM(日常的なアウトカムの測定)です。
※こころ理療法の悪化に関する研究について詳しく知りたい方は、以下のサイトから論文をダウンロードしてください。
※また、ROM(日常的なアウトカムの測定)についてはROMのページをご覧ください。
佐藤美保・田所摂寿(2026)「心理療法の悪化に関する実証的知見と臨床的対応 ―研究の歴史と今後の展望―」作大論集, 21, 51-76.